「また営業か」と思われたくなかった
正直に言うと、以前の私はマーケティングを「どう売り込むか」の問題として考えていました。チラシをどう作るか、SNSに何を投稿するか、メールをどう書くか。すべての起点が「どうすれば買ってもらえるか」だったのです。

でも、自分が消費者の立場で考えてみると、そういう情報は右から左へ流れていってしまいます。むしろ、少し身構えてしまうことすらあります。「また営業か」という、あの感覚です。自分がされると少し疲れてしまうことを、私は相手にし続けていたのかもしれない——あるとき、そう気づきました。
きっかけは小さなことでした。あるクライアントの周年イベントのお手伝いをしたとき、告知の文章を「来てください」から「こんな体験ができます」に変えただけで、問い合わせの雰囲気がガラッと変わったのです。申し込んでくださった方たちが、最初から少し前のめりでした。
体験をデザインする
それから私は、マーケティングを「売る場」ではなく「接点をデザインする場」として考えるようになりました。難しい話ではありません。要は、「この人たちにどんな時間を過ごしてほしいか」を先に考える、ということです。
たとえば自社のSNS発信でいえば、以前は「サービス紹介」や「実績報告」が中心でした。もちろんそれも必要なのですが、それだけだと受け取る側には「また宣伝だな」としか映りません。そこで試しに、仕事の裏側や失敗談、「これ面白かった」という発見を、そのまま書くようにしてみました。
すると、反応が変わりました。コメントやDMが増えたというよりも、久しぶりに会った人から「投稿見てますよ」と言われる機会が増えたのです。数字がどうこうよりも、「読んでくれている人がいる」という実感が持てるようになったことが、私には大きかったと思います。
文脈を提示することの意義
「エンターテインメント」という言葉を使うと、なんだかショーや演出みたいで、中小企業には縁遠い話に感じるかもしれません。私もそう思っていた時期があります。
でも、本質はシンプルだと思います。「この時間、この情報、この場が、相手にとって面白いか・意味があるか・記憶に残るか」を考えること。ただ、それだけです。規模は関係ありません。
私が最近やっていることのひとつは、提案書の中に「なぜこの構成にしたか」という自分の思考プロセスを短く書き添えることです。提案の中身だけを渡すのではなく、「こういうふうに考えました」という文脈も一緒に共有する。これだけで「あ、ちゃんと考えてくれているんだ」という感触が生まれる、と何人かのクライアントから言っていただきました。
気づいたこと
もちろん、良いことばかりではありません。体験をデザインしようとすると、手間がかかります。「早く・安く・わかりやすく」の逆をいく部分もあります。「そこまでやらなくてもいいのでは」と、自分でも思うことがあります。
それに、効果がすぐ数字に出るわけでもありません。体験の設計は、どちらかといえば「じわじわ効く」ものだと実感しています。今すぐ売上に直結するかというと、そう単純ではありません。ですから、短期の成果を追いかけているフェーズには、正直なところ向かないこともあると思います。
それから、「体験をデザインする」という発想が自分にフィットするかどうか、ということもあります。好きでやっていないと続きませんし、無理に「楽しそうに見せる」コンテンツは、かえって白々しくなってしまいます。私はたまたま「伝えることを考えるのが好き」な人間だったので合っていましたが、全員にとって同じ方法が正解だとは思っていません。
「誰かの記憶に残る」が、長期的には一番強い
それでも「やっていて良かった」と感じるのは、「覚えてもらえる」ことが増えたからです。
数年前に一度だけお会いした方から、突然「あのとき小田島さんが言っていたことが、今になってすごく腑に落ちて」と連絡をいただくことがあります。あるいは、「知り合いが困っているので紹介してもいいですか」という声が、思いがけないルートから届くこともあります。
これは、売り込みでは絶対に生まれない接点だと思います。何かしら「面白い・誠実・記憶に残る」という印象を持ってもらえたときに、初めて起きることです。そうした接点が少しずつ積み重なって、仕事につながっていく——そんな感覚があります。
まとめ
マーケティングを「売り込みの技術」から「接点・体験をデザインする仕事」として捉え直したら、自分の中の息苦しさが少し減りました。相手に何かを押しつけようとする感覚がなくなって、「これを面白いと思ってもらえるかな」という感覚で発信できるようになったのです。
正解があるわけではありませんし、私のやり方がすべての業種・規模に合うわけでもありません。ただ、「どう売るか」よりも「どんな体験を届けるか」を先に考えると、仕事が少し楽しくなる。それは確かでした。


